昨日は夜中に目が覚めて、そのまま眠れそうになかったので、朝まで本を読んで過ごしました。
最近、何故か心に引っ掛かっていたチェーホフの『ワーニャ伯父さん』
所謂チェーホフの「四大戯曲」と言われる作品の一つです。
私は二十歳前後に読んで、どれだけ泣かされたかわかりません。
久しぶりに読み返してみても、やはり所々で泣けてきます。
今も昔も変わらず、人はそれぞれいろんな苦しみや悲しみを抱えながら生きている。そういう当たり前のことが、この作品からは痛い程伝わってきます。
人生の一番いい時期を無駄に過ごしてしまったと嘆く主人公のワーニャ。働き者でやさしい心根の持ち主でありながら器量に恵まれない故に恋を成就させることのできない姪のソーニャ。才能と思慮に富みつつも野蛮な環境の中で日々の仕事に追われる医師のアーストロフ。若さと美貌に恵まれながらも定年退職した元大学教授の夫と共に無為の毎日を過ごさざるを得ないエレーナ。
この作品では、誰一人として自分の思うような人生を送ることが叶わない。その「辛さ」が読んでいてひしひしと伝わってくる。
そこには、それでも人は生きていく他はない、それが人生の厳しい真実なのだ、という作者の声が聞こえてくるような気がします。
ただ、その「厳しい真実」を語る作者の目線は決して残酷なものではなく、どこかあたたかい血の通ったもので、そこがチェーホフの優しさであり、読んでいて慰めを与えてくれる所以でもあると思います。
あと、これはチェーホフの他の作品、『三人姉妹』でも『桜の園』でもそうですが、時の流れの持つ何とも云われない無情感が共通して流れていることも、作品に奥行きを与える一因になっているように思います。