行政書士開業 徒然日記

57歳で行政書士開業を決意した男のブログです

小林秀雄の「恵み」

今は亡き作家の橋本治に『小林秀雄の恵み』というタイトルの本があって、書店の棚で目を引かれた私は、手に取ってパラパラとページをめくってみたことがありました。

 

ほんの立ち読み程度でしたので、橋本治がどういう意味を込めてそのようなタイトルを付けたのか、それは定かではないのですが、しかし、そのこととは別にして、小林秀雄の「恵み」というのは、なかなか言い得て妙な言葉ではないかと思います。

 

私は、学生時代に小林秀雄を随分と熱心に読みました。

 

その頃の私は、大学を卒業できる見込みも立たないまま、これから自分がどうやって生きて行けばいいのかまったく見当もつかず、逃げ場のない孤独と不安に、押しつぶされそうになっていました。

 

私は文学部の学生で、自分の病んだ心の居場所を、文学の世界に当てもなく求め、彷徨い歩いているような状態でした。

 

そのようななかで、小林秀雄の本を読んでいると、はじめは「お前はダメだ!」とひどく叱られているような気になるのですが、ただそれは、決して頭ごなしに自分を否定されているというものではなく、その奥の方からは確かな励ましの声が聞こえてくるようで、どこか勇気を与えてくれているような感じが、私にはしてくるのでした。

 

そのような経験を、小林秀雄の本を通して繰り返しているうちに、私は、自分の中での生きることへの希望と自信が、かすかではあるけれども蘇ってくるのを感じるようになっていきました。

 

それはまるで、暗い土の中から芽生えた植物が、様々な養分を取り込みながら成長していくのと同じように、私自身の病んだ心もまた、小林秀雄の言葉から得た養分によって、少しずつ健康を取り戻していくかのような経験でした。

 

私は、小林秀雄を読むにつれ、それまで持っていた文学への興味をほとんど失っていきました。

 

そのかわりに、私は小林秀雄を通して、人生や物事に対するものの見方そのものを教わることができました。それは私にとって、生半可に文学をかじるよりももっと大切なことであり、同時にそれが、私が小林秀雄から受けた最大の「恵み」だったのではないかと、今では思っています。

 

小林秀雄の「恵み」

 

それは確かにあるのであって、後はそれをどう受け取るか。そこは、人それぞれである他はないのかも知れません。